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英語教育の必修をやめよ、という主張

2010.12.08.18:47

こちらの本を見たのですが、

言葉のちから (文春文庫)言葉のちから (文春文庫)
(2006/11)
鈴木 孝夫

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文明論から、日本における外国語の問題を論じたものです。ほかの本でもだいたい似たようなことが書いてあるので、特に新しいことはないのですが、なかなか読ませますね。

鈴木氏の外国語論を支えているのは、「外国語をやることが無条件によいことではない」という認識です。外国語を学ぶことはすばらしい、というのは日本独特の価値観なのです。多くの国にとって、外国語とは、押しつけられるものであったり、自国語ではすべてをまかなえないからしようがなくやらざるをえないもの、だったりするのです。つまり本当はそんなに外国語にコストをかけたくはないけれども、生き残れないからしかたなくやるもの、というものなんですね。それが世界的には普通なんです。その言語を学んでもらえる国は得をしますし、学ばざるを得ない国は損をします。そういう力関係が背景にあります。それを見ないのはナイーブすぎるんです。

ところで現実に日本では、英語ができなくても生活に困ることはあんまりないわけです。これはむしろすばらしいことである、という基本認識が鈴木氏にはあります。文明論的に考えればその通りなんですよ。「英語は必要である」というのはイデオロギーなんです。全国民に英語が必要であるわけはないんです。日本はそういう状況にはおかれていないのです。

この基本認識が共有できないと、鈴木孝夫の英語教育論もわからないことになりますね。鈴木氏は英語がものすごくできる人であるわけですが、「英語が本当にできるようになるためにはどれだけのコストがかかるか」ということもよく知っています。当然、今の中学、高校の授業で満足なだけできるようになるわけがないこともわかります。

困ったことですが、私は基本的に賛成なんですよね、つまり「英語をやらなくても困らない人は、やらなくてよい」という主張に。つまり必修はやめよという論です。少数精鋭主義ですね。これは1970年代のいわゆる「平泉試案」の路線なんですが、私は基本的にそれが正しいと思ってます。やりたくない人は、やらなくてもいい。あるいは妥協して、「言語についての知見を広める」という意味で、つまり数学を「論理的思考を鍛える」という意味で教育するように、外国語の初歩を教えてもいいと思います。しかしそれは、せいぜい外国旅行で使える程度にして、「英語で主張ができる人間」など養成しようと思わない方がいいということです。

もっともこれは日本の戦後教育に共通した「平等主義」の原則を変えて、「エリートコース」とその他を分けるという思想ですから、反発は強いでしょうね。そしてエリートには「発信型の英語」を求めるというのが鈴木氏の考えです。

「英語は必要である」というのはお題目であり、真実ではないのですが、それによって多くの利権が支えられているという側面もあります。しかしまあ、少数精鋭主義にすれば、本当に英語力のある教師は失業することはないでしょう。私も英語のオール選択化を訴えていきたいと思います。全国民が英語を相当程度にできるようにする、というのがどれだけのコストがかかることなのか、そういうコストパフォーマンスの発想をしないので、そういうことが本当に必要なのかという議論が出ないのでしょうね。

一つ引用しておきます。

本当に英語を必要とするのは、仕事の正否が英語力の有無に左右されるような人で、こういう人たちは日本人のごく一部です。よく指摘されるような、英語ができないと国際競争に勝ち残れないという警鐘は、政治家や一部の官僚、一部の研究者など政治や経済、学問の最前線で国際社会の矢面に立たなければならない人たちに向けられているのであって、全国民を対象にした話ではありません。にもかかわらず、これからの日本人は英語くらい話せるようになるべきだ、といつのまにか国民全体に問題が転嫁されてしまった。だから英語を必要としない人まで義務教育における必修で学習を強制した反面、本当に高度の英語力が求められる人材がいつまでも育たないという困った状況になっているのです。 言葉のちから、p.235-6



英語学習における「コストパフォーマンス」の重要性を説いたものとして、次の本もあります。

捨てる英語、拾う英語 (アスカビジネス)捨てる英語、拾う英語 (アスカビジネス)
(2008/08/07)
井上 大輔

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プロフィール

SH

Author:SH
東京大学大学院総合文化研究科出身。現在、地方の公立大学教授。第二言語習得研究・音声学等の知識をもとに25年以上にわたり英語教育に携わる。
TOEIC990点。
英語のほかいろいろな言語をやってみました。フランス語・ドイツ語・中国語も本を読むことはできます。現在は中国語とロシア語を学習中で、自分の外国語学習理論による多言語習得をめざしています。ハングル能力検定3級合格。

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