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「翻訳者養成型」英語教育からの脱出

2013.12.01.13:18

多くの日本人は、ゼロから英語学習を始めるわけではありません。
すでに学校での英語教育をたくさん受けているわけです。
ですからそこでのメリットとデメリットを勘定に入れて学習方法を考えないといけません。
英米の英語教授法の学者がいう理想の方法をそのまま日本に持ってこようとしてもどうしようもないのです。
インタラクションの中で学んでいくのがベスト、というのは正論かもしれませんが、週3,4回で1クラスが40人、教室の外に出れば英語を使う機会はどこにもない、という環境で、それをやってどうするというのか、という問題があります。その国の英語教育法はあくまでその国の人がテイラーメードで考えるべきものです。

一般の人は英語教育の現状に漠然とした不満を抱いていますが、どこをどうしたらいいのか、ということはよくわかっていません。
会話の授業が不足していると考えて、英会話スクールに通ったりします。
「聞き流せばよい」という教材もありますね。
こういうものは、既に文法や単語の知識は十分にあるが、音を聞いたり実際に会話をしたりした経験がないのでできない、という人にはある程度の効果はあると思います。
ただ、基本的に基礎ができていない人はどうにもなりません。

明治以来の英語教育は基本的に「翻訳者養成」の教育であったと思われます。欧米の知識を日本語に直していくことが文明開化、近代化に必須だったからです。それはそれ以前の漢文の伝統をふまえたものでした。
そこでは「読めればいい」わけで、聞くことや話すことは必要とされませんでした。
それを効率的に進めるための方法が「訳読」であって、これもまた漢文読み下しという伝統の延長線上にあります。

問題は、時代が変わってきたのに、いまだにこの「翻訳者養成型の教育法」が生き残っていることにあるのです。

もちろんその外国語の用途によっては、それでいいということもあるのです。私も、研究上、フランス語・ドイツ語・中国語の文献を読むことがたまにあります。辞書を引いてだいたいの意味はわかりますが、会話はいっさいできません。しかし、それは必要ないのですから、やらなくてよいのです。
英語だって、話すことを捨てて、ネットで情報が検索できるという「読むこと」のみに特化した英語力というものがあったっていいのです。

この「翻訳者養成型」教育は、本来、エリートのためのものです。
原書ががんがん読めていかないといけないのです。
ところが、このエリート型教育が全国民に対して行われてしまったために、実際にこの教育の目的である「本がなんとか読める」という水準に達する人は、5%もいないという状況です。
読めるようにならなければ、やってる意味はありません。中途半端にやってもしかたないのです。
それならいっそ、本や論文を読むことはあきらめて、ごく簡単な身の回りのことを最低限言える、という目標に切り替えればいいのでしょうが、そういうわけにもいかない、ということです。つまり高校卒業までにいまの中学レベルまで、読めるだけでなくて言えるようにするという目標を立てればかなりの人が英語を多少は話すことができるようになりますが、エリート養成ができなくなるので文科省は困るのです。それというのも結局は、「全国民に対して同一の到達目標を定める」という基本方針をやめられないからです。ですが、その方針があるままだと、結局エリート養成も、一般の人が最低限の英語ができるというのも、どっちも中途半端になってしまいます。

またもう一つは、大学に対してはやたら厳しくなってますが、「中等教育における質の保証」というコンセプトがこの国の教育政策にはあまりありません。
なぜ英語がまったく中学一年程度もできないのに大学に入る人がいるのか、といったら、それはそういう人を高校を卒業させるからですし、原級留置もないわけですね。落ちこぼれを絶対作ってはいけないのか(現実は落ちこぼれているがそれがいないという建前を守る)、落ちこぼれが多少出るのは当然だと考えるのか、という問題でもあります。

さらに言えば、本当に全国民に英語は必要なのか、ということです。現実には、必要ではありません。必要なのは、エリート層です。教育政策としては、本音としてはエリート層の質を確保したいのだが、他の人はやらなくていい、というのは「到達目標については平等にする」という建前に反するのでそれは言えないわけです。ですから、英語なんてあいさつとかトイレはどこかくらい言えればいいような人までエリート層と同じ目標が設定されてしまっている。こういう矛盾があるんですね。

まあ、そういう問題がありますが、ともかくも、今のエリート層は英語が読めるだけではだめで、オールラウンドでなきゃいけないということはみな気づいていて、いろいろやろうとしますが、全員に対してやらねばならない建前なので(まあ、セルハイというものはありますが)、それだけ予算は確保できない、という現状です。教員養成も変えないといけませんが、こっちは大学の「自主性」に大幅に任せてしまっているのでなかなかすぐにはいきません。

教育政策の批判はこのくらいにして、それでは、この「翻訳者養成型」の教育を受けてしまった人が、そこから「オールラウンド型」に軌道修正していくか、という道を考えてみることにしましょう。

この教育法のネガティブな面は(もちろんポジティブな面がないわけではありませんが)

1.英語を日本語に直して理解する癖がついてしまっていることがある。
2.文字と音声が一致しないので、読んでわかってもまったく聞き取れない。
3.英語の音声的な特徴についての基礎知識を教わっていない。

この3つがあります。
ですのでここをケアする学習法を入れれば、今までの知識を、オールラウンド型に切り替えていくことができるでしょう。
ただし、基本的な文法や単語があやふやな人はそれだけではだめなので、別のやり方が必要です。

ケアするのは簡単で、一つはずばり「多読」です。やさしいものの多読ですね、特に。
第二点は、「意味のわかった英文の読み上げ音声を徹底して聞く」です。
第三点は、「英語の音声面についての基礎知識を一回ちゃんと勉強しておく」です。

第一点については、多読のガイドブックはいま多数出ていますから、それを参照してください。ただ、「辞書は絶対に引かない」はあまりこだわらなくてもいいだろう、と個人的には思います。これは、「訳読病患者」の重症の人のためのアドバイスで、知らない単語があるとまったく先に進めないという人のために、わざとそういう言い方をしていると思ったらいいです。ほとほどに、たまに辞書を引くのはいっこうにかまいません。とにかく、「日本語に訳さずに英語だけが頭の中を流れている」という状態を長く持続して経験するために、引かない方が効果的なのだ、という意味です。知らない単語はチェックだけしておいてあとでまとめて調べたりするのは問題ありません。

第二点は、自分のレベルにあったものなら何でも、音源つきのテキストを買って聞けばいいだけです。いま、ほとんどの教材はCDがついているが音声ダウンロードができますね。学校の教科書だけCDがついていないのは世界七不思議の一つだと思っています。
なおこういう教材は、和訳や解説がついていることが多いです。最初から和訳を見てもいっこうにかまいません。
ある程度までやったら(80%くらい)次の教材に行くとよいです。というのはこういう本をやりながら語彙を増やしていくのがよいからです。新しい語彙も耳からも覚えることができますね。
「読める」のと「聞ける」のレベルと一致させていくことです。この作業は、日本の英語教育の最大の欠点を補うものなのでとても重要です。
英語字幕付で英語のドラマを見る、というやり方もよろしいと思います。

第三点は、これも最近そういう本が出ていますので一冊やればよいです。現在の私のおすすめは、野中泉『脱カタカナ英語の処方箋』です。
そういう基礎知識を得た後、上の音源つき教材を音読するとか、シャドーイングするとかの練習を入れればよいでしょう。

なお、会話の練習もしたいという人は、料金の高い英会話スクールではなく、安いオンライン英会話で十分です。ある程度量をこなすのが大事なので、高いと続きません。


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2014.02.26.22:40

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プロフィール

SH

Author:SH
東京大学大学院総合文化研究科出身。現在、地方の公立大学教授。第二言語習得研究・音声学等の知識をもとに25年以上にわたり英語教育に携わる。
TOEIC990点。
英語のほかいろいろな言語をやってみました。フランス語・ドイツ語・中国語も本を読むことはできます。現在は中国語とロシア語を学習中で、自分の外国語学習理論による多言語習得をめざしています。ハングル能力検定3級合格。

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