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英語教育政策にSLAの知見を反映させよ

2013.05.18.10:28

総理官邸による「教育再生実行会議」では、次のような意見も出ています。私もこの方向を支持します。

○ 「TOEFLを大学入試に導入」という提言については、TOEFLが、各段に難易度が高く大学入試で実力差が測定しにくいこと、受験料が高額であり「公平性」の問題があること、テスト設計が異なるため学校の英語教育が形骸化する恐れがあることから、「国産の英語力検定試験」を開発し、大学が選択できるようにすべき。


第7回 教育再生実行会議 配布資料 
資料1 大学教育・グローバル人材育成についての委員の主な意見
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/kyouikusaisei/dai7/siryou.html

また「グローバル人材」については、八木委員の意見に聞くべきものがあるように感じました。
つまり、大学の多様化にあって、グローバル化はすべての大学に要求するものなのか、という視点と、グローバル化とは、グローバル化社会を良しとしてそこに適応するというより「日本文明の生き残り」としてとらえるべきだ、という視点に共感を覚えました。
なおこの視点に立つならば、Vivian Cook による multicompetence のコンセプトが有用だと感じましたが、これが一般にはまったく浸透していないのは残念に思いました。

つまり「日本語や日本文化がよくわかった上で、英語もできる」からこそグローバル社会でのアドバンテージがあるのだ、という視点に立たないといけないだろう、ということです。「英語ができる」だけが偉いのではありません。
八木委員を除いては、その視点が曖昧です。ですから native speaker fallacy が飛び出してくる。でも安倍首相が multicompetence を知ったら賛成するだろうと思います。
なぜかというとグローバルスタンダードとは「仮借なき弱肉強食の世界」なのですから、それは日本の本来的な価値観とはあいいれないですし、日本的価値がこれから世界に必要だということを英語で訴える必要があるのです。

英語と言っても、どういう英語なのか。グローバル化時代の英語というのは、英米のネイティブの英語のことなのか。リンガ・フランカとしての英語なのか。こういう問題意識が、グローバル人材の教育を語る会議からは欠落していたというのは残念でなりません。やはり、誰か応用言語学の専門家を入れて議論すべきだろうと思います。

この会議の委員は、あくまで英語教育については素人です。ですので、ネイティブスピーカーの教員を増やせば英語教育はよくなる、などという単純なことを言っていたり、「幼いうちにやらなければだめ」だの、一般の人がよく思っているステレオタイプな見方が頻出します。

つまりここで言いたいのは、SLAの研究成果が社会的な共有材となっておらず、まったくそんなものが存在しないかのように議論が進行しているという現状があるということです。
たとえば白井恭弘のさんの岩波新書『外国語学習の科学』をいちおう全委員が読んできてから話を始める、などということはできないのでしょうか。
既存の英語教育関係者は、既得権益者と見なされて排除されているのだろうと思いますが、金谷憲さんなど改革したいと思っている人はたくさんいます。しかしそういう人を掘り起こして委員に入れるというリサーチが足りません。

一方では、SLA関係者の責任も問われます。このように、素人集団によって英語教育改革の政策がどんどん進んでいるのに、手をこまねいてそれを見ているだけでよいのでしょうか。
つまり「語学習得についての基本知識というものがある」という認識が社会的に認知されておらず、そういう知識なしに素人が集まって語学教育についての方針を決めてもいい、という文化ができているということに危惧を覚えるわけです。

SLA関係者は、もっと政策にその知見を反映させるよう、行動するべきだと思います。

たとえば、英語教員免許にその知識を必須とするとか、そういう改革も必要ですし。

学界関係者は早急に意見を集約して、代表者が官邸か文部科学省を訪れて申し入れをするくらいの行動力を示したらいかがですか? なんのためにそういう学者がいるのか考えればそうなりますよね。

白井さんのスローガン、「多量のインプットと少量のアウトプット」というフレーズだけでも共有財産としてあるなら、だいぶ違ってくると思います。

その原則にしたがい、かつ日本の教育現場で実行可能な方法とはどういうものか、という具体論に入っていく必要があります。
具体的にはこのブログでも、過去に、

・多読などによりインプット量を圧倒的に増やす
・理解した英文を音読/シャドーイング等により定着させる活動をする
・音声面の指導をしっかり行い、音声を聞きまねることをメインの活動とする

ということを考察しました。
ネイティブスピーカーや一部のスーパー教師でなければできない授業法では意味がありません。誰でも少し研修を受ければできるやり方で、訳読ではない授業スタイルを研究していくことが現実的には非常に重要になります。金谷憲さんのグループの取り組みはその意味でもっと広まらないといけません。

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金谷 憲、高山 芳樹 他

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大学入試に関しては、読解はセンター試験レベルまでで、それ以上に難しい英文を読めるようにするよりは、その分をほかの3技能に回し、高度な読解は必要に応じて大学で教育すればいいでしょう。大学入試が、リーディングのみを突出して難しくして4技能のバランスが崩れていることが問題なのです。ですからTOEFLはその意味でも混乱を増すことになりかねません。今のセンター試験を4技能バランス型に変えれば相当よくなるだろうと思います。それを国で作る方がTOEFL導入よりよいというのが私の意見です。

あとは英語教員養成の問題があるだろうと思いますが、それはまた別の機会に。

最後に。英語教育再生会議があれば、門田修平さん・金谷憲さんを委員に推薦します。(白井さんはアメリカ在住ですからねえ)。
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プロフィール

SH

Author:SH
東京大学大学院総合文化研究科出身。現在、地方の公立大学教授。第二言語習得研究・音声学等の知識をもとに25年以上にわたり英語教育に携わる。
TOEIC990点。
英語のほかいろいろな言語をやってみました。フランス語・ドイツ語・中国語も本を読むことはできます。現在は中国語とロシア語を学習中で、自分の外国語学習理論による多言語習得をめざしています。ハングル能力検定3級合格。

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