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青谷正妥『英語学習論』について

2013.04.04.10:08

こちらの本を読んでみました。


英語学習論: ―スピーキングと総合力―英語学習論: ―スピーキングと総合力―
(2012/09/25)
青谷 正妥

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結論から書くとかなりの好著ですね、5つ星つけられますが、ただし、そこに書いてある勉強法は万人向きではなく、TOEIC600点以上の人がさらに上を目指すためのものです。
まず著者の青谷さん。なかなか面白い人ですね。文章にキャラクターがにじみ出ているので、けっこう難しいことを書いてるわりには楽しく読めました。特に「たかみなとカツ丼」のコラムには爆笑しました(^_^;
しかし、TOEFL iBT満点とはすごいですね。それがいかにすごいことかなかなかわかる人は少ないのですが、ある意味、TOEIC満点や英検1級なんてたいしたものじゃないんです。TOEFL満点こそすごいですよ。めったに取れるものじゃありません。
それでも、「ネイティブスピーカー同士が早口で話しているのはわからない」と言っています。私はそんなものだと思っているので驚きません。

内容は、SLAなど科学的研究の成果を盛り込んであり、白井さんの本などと比べるとかなり学術的内容が多く、読むには日本語力が必要と思います。普通の英語学習法本を読むつもりだと異常に難しい本に感じるでしょうね。
しかし、どちらかというとこの本はそういう研究への手引きという意味で書かれているようなので(参考文献の多さがそれを物語っていますね)、どちらかというと一般学習者というより英語教育プロ向きという印象を受けました。

第二言語習得には「明示的知識」と「暗示的知識」がありますが(私はわかりやすく説明しようという時には「意識と無意識」と乱暴に言ってしまいます)、この本では「宣言的知識」と「手続き的知識」という語を用います。まずこの術語の意味を押さえないと本全体がわかってきません。
その上で提案している学習法は、ほかの本とちょっと違いますね。
それはスピーキング重視の姿勢です。
具体的に言うと、かなりTOEFLの勉強法をモデルにしているようです。たとえばお題について15秒考えて45秒しゃべる、というようなトレーニングです。

これは、やさしく言えば「知識としてわかった分の英語は、しっかり使えるようにしておく」(これを「fluencyの獲得」と言ってます)、つまり、今の自分の到達レベルなりの流暢さを得ることが大事ということです。
今までの学校教育は「わかった」段階で終わっていることが多いので、「使える」ようにしろ、という意味です。3000語わかるのであればその3000語で何か話せるようにしろ、ということですね。

しかし著者がここで提示している勉強法は、著者の勤務校である京大の学生に適合したものでしょう。
45秒で話せと言っても、ほとんどめちゃくちゃなものしか出てこない人には、この学習法は「早すぎる」ということになります。
これは京大生のように知識としては相当ある人がその知識を使えるようにするには優れた方法ですが、そもそも知識もない人には無理です。
だいたい目安としてはTOEIC600点行ってない人はこのやり方はすすめられません。

ではそこまで行ってない人はどうやって「知識を使えるように変える」のかというと、それは、森沢さんの『英語上達完全マップ』や、木村達哉さんの『キムタツ式・・パワフルメソッド』、あるいは安河内さんのいろんな本に書かれているように、音読を使うのがいいと思います。そしてアウトプットは格安なスカイプ英会話を少しやる、ってな感じがおすすめです。
こういった定番的な学習法解説書と青谷さんのやり方が異なるのは、青谷さんのはもう既にある程度できる人がさらに上を目指すためのものであるからです。
逆に言えば、TOEIC600以上行ってしまった人は、TOEFLあるいはTOEIC SWのような枠組みのスピーキングテストを目標に話す練習をしていくのが効果的だ、ということもここから読み取れます。
最近、安河内さんのSWテストの本も出ましたが、もっとその勉強法が広まってもいいでしょう。TOEIC一辺倒ではなく、SWも視野に入れ、そしてTOEICのかなり上級に来たらTOEFLも指標にしていく、ということがあります。個人的には、TOEIC980点を取ったような人がさらに満点を目指すのは、ゲーム的なものは別として英語力養成という点では効率が悪いのではないかと思います。900くらいになったらもうSWやTOEFLにシフトしていく方が有益ではないでしょうか。

この本で書いている青谷さんの到達目標は恐ろしく高いものですね。
10年計画でやれ、ということです。たしかに。

ただ一つ感じたのは、この本では英語のネイティブ・スピーカーが絶対的な高みとして設定されていて、どこまでそこに近づけるか、という視点でのみ語られていますが、そこには「リンガ・フランカ(国際共通語)としての英語」という視点があまり入ってない感じでした。
青谷さんでさえ英語で話しているとどうしても日本語と同じ知的レベルが発揮しにくい、と書いていますが、そうであるならば、そのように英語のネイティブスピーカーの優位さを当然としている今の国際社会のあり方というのはそもそもどうなのか、という視点が必要です。
それが鈴木孝夫さんから学ぶべき点ですね。
今ある世界を前提としてその中でいかに自分が上に上がるか、ということだけでなくて、世界の秩序をもう少しよいものにしていこうという視野も必要だと思いますよ。

ネイティブっていいますが、私たちもネイティブなんですよ、日本語の。
「日本語のネイティブスピーカーとしての強みをどう発揮するのか」という問いを考えたことがありますか?

ある意味、ある程度英語が上級になってくれば、英語ができる人自体は世界に何億人もいるのですから、むしろ、「英語と日本語の二つが話せる」ということがアドバンテージになってきます。
そう考えることが国際的な視野じゃないかと思いますよ。

ところで、この本で重要なことの一つは、「言葉とはまず、音である」という認識ですね。
当たり前ですが、言語はまず音としてあり、文字はずっと後です。
ということは、人間の脳もそもそも音としての言語に反応するようにできているわけで、そう考えると「音抜きで言語を学ぶ」というのがいかに効率が悪いことであるか、ということです。
その点がこの本ではよく解説してあります(ちと難しいですが)。
実際、日本の英語学習の欠点は、「音を軽視して、文字だけで学んでしまう」ということにあります。
実は音とともに英語を入れてやる方がずっと定着しやすいのだ、もともとそういうものだということですね。
リスニングは添え物ではなくて、言語習得の最も基礎なんです。
ですから既に音を軽視したまま受験英語をやってしまった人は、目で見てわかるものを音で覚え直す、という作業が必要になってきます。そういうトレーニングの指標としてTOEICは一定の有効性があります。

要するに、「音は大事だ」ということと、「スピーキングはTOEFLのような形で訓練するとよい」という学習法の提示が、この本でわかった収穫でした。
あと、インプットとアウトプットの比率について言及がなかったのは残念。この本だけ見てるとスピーキングばかりやりなさいみたいに誤解される恐れがありますが、当然それは多量のインプットを前提としているはずです。

例によって、本の書評というよりはそれをだしにしていいたいことを言ってるだけになってますが、ともあれ、面白い本ではありました。
TOEIC600以上の人におすすめします。それ以前の人は、先にも書きましたが森沢さん、木村さん、安河内さんの学習法本の方がよいです。あとkindle版しか今ないのですが、井上大輔さん『捨てる英語、拾う英語』も機会があれば読んでみてください。
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プロフィール

SH

Author:SH
東京大学大学院総合文化研究科出身。現在、地方の公立大学教授。第二言語習得研究・音声学等の知識をもとに25年以上にわたり英語教育に携わる。
TOEIC990点。
英語のほかいろいろな言語をやってみました。フランス語・ドイツ語・中国語も本を読むことはできます。現在は中国語とロシア語を学習中で、自分の外国語学習理論による多言語習得をめざしています。ハングル能力検定3級合格。

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