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まっとうな英語学習法――『品格ある日本人の英語』について

2012.08.17.23:45

ひさびさに英語学習法の本を見ました。

ーネイティブ信仰を捨てれば、必ずうまくなる!!ー 品格ある日本人の英語 (CD付)ーネイティブ信仰を捨てれば、必ずうまくなる!!ー 品格ある日本人の英語 (CD付)
(2009/05/21)
曽根 宏

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この本はよかったですね。とても「まっとう」な英語学習についての見解です。

ネイティブをモデルとする必要はない、日本人の英語として品格ある英語をめざせばよいということが著者の経験から説得的に語ります。
付属のCDに著者の英語が入っているのですが、発音はかなり日本人英語ですね。正直、ちょっと専門的な発音訓練を受ければすぐよくなるのに、と思いました。音声学のわかっている教師がうまく教えれば発音をよくするのは難しいことではないのですが(ネイティブ並みというわけではなく、ノンネイティブとして十分な程度)、そういう可能性を考えていないのはちょっと残念なところです。

あと紹介しますと、「英語学習者が振り回されている4つのウソ」ということを書いているので、それにあわせて私のコメントを書いてみます。基本的には著者ではなく私のコメントです。

1.日本人は英語の読み、書きは得意だが会話は苦手

実は、日本人は英語が「読めてはいない」のです。読めるというのは、相当に速いスピードで一切日本語に訳すことなく、辞書もほとんど引かずに内容がわかるという意味なのであって、辞書を引き引き時間をかけて「英文解釈」ができるという意味ではないのです。「英文解釈できる」というのは「読める」うちには入りません。本当に「読める」のならば、それが会話力の基礎になるのです。むしろ、本当には読めないから話せないのです。つまり、圧倒的なたくさんの英文を読むという訓練こそが日本人に決定的に不足しているものだということです。

2.学校英語がいけない

学校英語が読み書きばかり教えて、会話をやらないのがいけない、という学校英語批判は皮相なものです。
しっかり読みができるようになるということはとても重要なので、限られた授業時間ではそれにフォーカスするのは何ら問題はありません。
ただ私のコメントを付け加えるならば、読み重視でかまわないが、やり方はもっと工夫するのがよいということがあります。
具体的には、和訳を最終目標とするのではなく、その英文自体をしっかりインプットする練習を多くするということです。和訳は渡してしまい、余った時間を音読などの練習にあててはどうでしょう。教科書にはCDをつけ、リズムも正確に音読できるようにする、という練習をしてそれを評価にも組み入れるようにすれば生徒の英語力はさらに向上するはずです。

3.実用英語はとにかく日常会話から始める

著者は、難易度の順に、定型日常会話 ⇒ ビジネス英語 ⇒ 非定型日常会話 になると言います。

定型日常会話とはサバイバル英会話のことで、お店、ホテル、空港などで用を足すための英語ですね。
これに対して非定型日常会話とは、ドラマや映画などのようなネイティブ同士のカジュアルな会話です。

実はこの非定型日常会話が英語のあらゆるジャンルの中で最も難しいものなのです。
映画を字幕なしで見るということはおよそ英語学習の中で最高難度のことなのだ、と知っている人がどれだけいるのでしょうか? TOEIC900点の人でも2割くらいしかわからないのは普通のことですよ。

会話といってもこの二つは明確に分けて、非定型の方はほんとにTOEIC満点を取ってからでも遅くないくらいに考えた方がいいのです。世間ではこのレベルの英語を練習する本がけっこう出ていますが、ほんとの上級者しか手を出してはいけないものです。ニュースの英語などはほとんどわかるようになった人が、最後のステージとしてドラマ字幕なしに挑戦する段階の時にやることなのです。

4.英語はネイティブに学ばなければダメ

これはいうまでもないのですが、もはや英語は英米人の文化を学ぶためにやるものではなく、ノンネイティブ同士のコミュニケーションを意識するものになっているのですから、いまさら英米人でなければならぬというのは古い考え方なのです。それでも現実には英会話学校などはネイティブ(それも白人)でないと商売にならないようになっていますね。
しかしフィリピン系のスカイプ英会話スクールの登場は英会話産業を変えてしまうと思います。残念ながらまだこれを知らない人が多いようなのですが、もうネイティブの、値段の高い英会話学校は社会的目的を終了しつつあるかもしれないとさえ思います。マンツーマン授業がこれほど安価に受けられるのですからね。
同時に、学校などでネイティブの教師が30人や40人を相手に教えているようなクラスというのも、もう意味を喪失しつつあるのではないでしょうか。学校の授業時間は日本人教師がリーディングとリスニング,発音などをしっかり教えて、アウトプットの練習はフィリピン人とのスカイプというふうに分業するのが効率的だと思うのですが。ネイティブ講師が貴重価値だという時代に、生徒に英会話学校の出店を体験させてあげるという発想があったのでしょうが、それは終わりましたね。
そもそも講師がネイティブであるだけで、「英語はネイティブのようにやらなければならない」という暗黙のメッセージを発信することになるので、英語が「国際共通語」という認識を高める方向にいくようにならないかもしれません。もちろん、ネイティブ講師の質にもよりますが。

それから、発音も、音声学を学んだ日本人教師が絶対的にいいのですよ。日本人のできないところをわかっていますから。かなり英語ができる人でも「発音はネイティブに習わなければ」と思いこんでいる人が多いのですが、そういう人は英語学習の過程で「良質の発音指導」というものを受けたことが一回もないので、そもそもそういうことが可能であるという発想がないのです。rとlの言い分けなど、コツさえつかめばそれほど難しいものではないのです。永遠に日本人にはできないなどと思いこむ必要はありません。

さらに、第5章では学習法について触れています。

ここで共感したのは、英語のレベルとして三つに分ける考え方です。

(1) 初心者レベル=サバイバル英会話
(2) 上級者レベル=国際舞台で活躍する英語力
(3) プロレベル=通訳者や翻訳者

目標はまず(2)になるわけですが、そこまでの過程を著者はさらに三つのフェーズに分けています。

フェーズ1: 英会話恐怖症・外国人恐怖症の克服段階 TOEIC500以下
フェーズ2: 表現力欠乏症の克服段階 TOIEC500~900
フェーズ3: 国際舞台で活躍できる英語力に達した段階 TOEIC900以上

いちおう学校英語はそこそこやったという人は、まずフェーズ1としては、その英語をサバイバルレベルで話せるという練習がいるということです。これは既に持っているものを使えるようにするということなので、実際の会話練習をするわけです。外国人相手にロールプレイをするような練習ですね。それは、多くの会話授業というものでおこなわれているものでしょう。
ただこれは、ガイドなしでも旅行や現地滞在ができるという程度のもので、仕事で使えるというレベルのものではありません。
ただ一般に会話クラスと言われているものはそういうサバイバルレベルの練習ですね。
そういうものをたとえば大学の授業としてやる価値があるのか? という議論はあろうかと思われます。
私の意見では、これもスカイプ英会話でいいでしょう。

さてフェーズ1を卒業してフェーズ2になり、そこからフェーズ3に行くには飛躍があります。つまりここには中間というものがないのです。
そして、フェーズ3へ行くには、2000時間の学習が必要である、と著者は断言します。。
私もそれにはまったく賛成です。そのくらいの時間がいるのです。時間というのはインプットの量ということです。
ここでは、読む・聞くの集中したインプットがいるのです。具体的にいうと、さらに読みは精読と多読、聞くは精聴と多聴に分かれます。

英語のレベルを引き上げるのはあくまでインプットです。アウトプットは、インプットしたものを使えるようにする練習であり、またさらなるインプットへの刺激として意味があります。

それがわからないで、サバイバル英会話ができるようになったあとも、ただ会話の授業ばかり続けていても、伸び悩みます。
インプット中心に練習に切り替えて、たまにスカイプ英会話、という感じでやるのがいいのです。インプットとアウトプットとの割合は8対2か9対1くらいでいいのです。

インプットは和訳とCDつきの教材から始めて、慣れてきたらニュースとか、オーディオブック、あるいは洋書などに進めばいいですね。
とにかく読むこと、聞くことなのです。それ以外に近道はないですね。
その基礎の上で、各専門に関する英語を覚えていくという感じです。

実際に使えるようになるまでの2000時間は果てしがないように見えますので、進歩をはかるインセンティブとしてTOEICを使えばいいと著者は書いていますが、私も賛成で、TOEICはそういうふうに使うのがいいです。というか、そもそもTOEICはそういう目的で作られた試験だと考えています。つまり中級者の英語学習の目安とするための試験です。ですからそのスコアを英語力の「証明」と考えるのは本当はちょっと違うということですが。

一般に世間で「英語が話せる」というのは何を指しているのか? ということですが、それはフェーズ1のサバイバル英会話のことなのか、フェーズ3の仕事で使えるレベルなのかという問題があります。

「読みばかりやっているから会話ができないのだ」という考えに従って会話クラスをやるというのは、多くのはフェーズ1のことができるようにする、という意味です。
しかしフェーズ3の英語力にどうしたら行けるかということを考えたら、「読みばかりやっているからいけない」のではなくて、「読む量(聴く量)が足りないからできないのだ」ということに気づく必要があるということです。
会話クラスは英語学習の中心にはなりません。10のうち1か2くらいのものなので、うまく英語学習全体の中に位置づけることです。
世間では、何となく会話の授業をやっていればそのうち仕事で使えるレベルまで行くだろうという幻想を抱いている人がいますが、それでは20年やってもできるようにはなりません。

そして、限られた時間の中でおこなう学校の英語では、サバイバルレベルの会話授業はやる必要はないと私は思います。40人のクラスでロールプレイの練習をするくらいなら、安価なスカイプ英会話に任せればよいです。

著者の、(1)初心者レベルと(2)上級者レベルの間に中間はないというのは特に印象的ですね。たしかに、TOEIC500でも600でもそれはやっぱり「仕事では使えない」のです。使えるということになればどうしても900くらいまではよじ登る必要があります。「中級者」というのは上級者になる過程にある人を言うので、そこでやめてしまうと中途半端ということなのですねえ。
ですから、自分は本当に英語が使えるようになるのに2000時間を投資するつもりがあるか、その対費用効果をよく吟味して始める必要があることになります。
特に英語を使うあてもないのになんとなく「できたらいいな」というような考えでは、挫折するのは目に見えています。
そういう場合は、自分はサバイバルレベルだけをやるのだ、と目標設定をすればいいのです。
あるいは、英語の何分の一かの努力で使えるようになる中国語や韓国語をやってみるという選択肢もあり得るわけです。

著者も強調してますが、いまどき、仕事の英語というのは読み書きが中心なのです。メールが仕事の中心になっていますからね。なんでも会話だという考えはそれだけでもずれています。
書くというのは大量の読みというインプットなしにはできないものです。

というわけで、ひさびさにとてもまっとうなことを言っている本でしたので紹介してみました。ただ上に書いたことは私の考えによってかなり追加をしてありますので、実際に著者が書いていることについては直接本の方を見てください。
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comment

Secret

No title

2012.08.18.01:50

いやあいつも参考になります。
英語教育はインプット中心というのはクラッシェン以降の流れと考えていいですか?

Re: No title

2012.08.18.11:22

そうですね。
クラッシェンの主張がすべて受け入れられているわけではありませんが、インプットの重要性については誰も否定しないという状況になっていると思います。

No title

2012.08.19.01:27

菅原さん、はじめまして。

目からウロコな記事に衝撃を受けています。
今までの英語学習の考え方は変わりました。

ドラマを英語で聞くという間違いを犯していました。
お察しのとおり、ちんぷんかんぷんです。
たしかに、ネイティブ同士のカジュアルな会話のほうが難しいのは当たり前ですよね。

この本に興味を持ちました。

Re: No title

2012.08.19.08:52

こんにちは
ドラマを英語字幕で、というのは楽しいですけどね。やってもいいんですけど、難しいレベルだということは理解しておこうということです。
ネイティブの口語表現は、ネイティブの世界でしか通用しないわけなので、国際的に見れば特殊な英語だといえますから、そういう必要や興味が特にある人だけやるものだと思います。ネイティブ口語表現を学ぶという意味ではドラマは優れた教材になるでしょう。
プロフィール

SH

Author:SH
東京大学大学院総合文化研究科出身。現在、地方の公立大学教授。第二言語習得研究・音声学等の知識をもとに25年以上にわたり英語教育に携わる。
TOEIC990点。
英語のほかいろいろな言語をやってみました。フランス語・ドイツ語・中国語も本を読むことはできます。現在は中国語とロシア語を学習中で、自分の外国語学習理論による多言語習得をめざしています。ハングル能力検定3級合格。

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